老年病診療について

老年病診療では、年齢とともに生じる身体や心の変化をふまえ、複数の病気や症状を同時に診ていく総合的な医療です。
当院では、高齢者の方に特有の健康課題に対して、専門的な知見をもとに総合的な診療を行っています。人生100歳時代の超高齢社会で病気の治療だけでなく、より良い「生活の質、QOL (Quality Of Life) 」のためには、自分自身の健康に関心を持ち、社会参加度や栄養面、嚥下機能の管理、認知機能の管理、運動習慣を振り返り、改善の余地がある部分は積極的に取り組んでみる姿勢が大切です。
ご自身の健康状態を知る第一歩として、お気軽にご相談ください。

認知症

65歳以上の高齢者の4人に1人以上が認知症と推計されています。
認知症の原因で、最も多いのはアルツハイマー病、全体の半数以上を占めます。その他、血管性認知症、レビー小体型認知症、前頭側頭型認知症などが主な原因として挙げられます。また、慢性硬膜下血腫や正常圧水頭症、甲状腺疾患、ビタミン欠乏など、治療可能な認知症もあります。

認知症スクリーニング

ミニメンタルステート検査(MMSE)

認知機能テストのなかでも、世界的に広く普及し、国内でも多く使用されているのが、ミニメンタルステート検査です。
10~15分の制限時間内で、計算力や言語能力、図形描写力が問われます。
30点満点中23点以下であれば認知症の疑いが強いと判断されます。

改訂 長谷川式スケール(HDS-R)

長谷川式スケールは、名前や生年月日、年齢、人間関係などの設問に、患者が口頭で回答する認知機能テストです。所要時間は10~15分ほどで、30点満点中20点以下であれば認知症の可能性が高いとされます。
ただし、その日の体調や気分といったコンディションに、検査結果が左右されやすいことから、一つのテスト結果だけで認知症と診断されるわけではありません。
一般的に、ほかの検査の結果も組み合わせて、判断されます。

血液検査のスクリーニング

認知症症状につながる可能性のある、甲状腺機能低下やビタミン欠乏、感染症が起きていないかを検査します。

骨粗鬆症

骨粗鬆症とは、骨の量(骨量)が減って骨が弱くなり、骨折しやすくなる病気です。
骨密度は50歳ごろから低下し始めます。高齢者の骨折は寝たきりの原因となるため、骨折予防が非常に重要です。
当院では、手の指の骨のレントゲン撮影で判定するDIP法で検査をします。骨密度を測定することで早期からの骨折を予防します。また、採血をおこなうことで骨代謝マーカーやビタミンDの値を測定して骨粗しょう症の早期発見をします。

原因と病態

からだの中の骨は生きています。同じように見えても、新たに作られること(骨形成)と溶かして壊されること(骨吸収)を繰り返しています。骨粗鬆症は、このバランスが崩れることでおこり、骨がスカスカになってきます。骨粗鬆症は圧倒的に女性、特に閉経後の女性に多くみられ、女性ホルモンの減少や老化と関わりが深いと考えられています。

骨粗鬆症は予防が大切な病気です。

  • 転ばないように注意する
  • カルシウムを十分にとる
  • ビタミンD、ビタミンK、リン、マグネシウムをとる
  • 適量のタンパク質をとる
  • 禁煙し、アルコールは控えめにする
  • 運動、日光浴をする

ポリファーマシー

ポリファーマシーとは、多種類の薬の服用により、副作用などの有害事象につながる可能性がある状態のことです。
「poly(複数)」と「pharmacy(調剤)」を合わせてつくられた言葉です。
現在、日本では高齢者の約半数がポリファーマシーの状態といわれています。
高齢になると、複数の疾患に罹患しやすくなり、その結果として多くの薬剤が処方される傾向があるためです。薬の副作用による不調に対して別の薬を処方するという「処方カスケード」もポリファーマシーを形成してしまうこともあります。
当院では10種類以上の薬を定期的に内服している高齢者の薬を確認していただき、薬の整理を行います。

ポリファーマシー対策には患者さまのご協力も必要です。

  • お薬手帳を1冊にまとめてもらう
  • 飲んでいる薬はサプリメント・市販薬も含め、すべて申告してもらう
  • 正しい飲み方で飲んでもらう

嚥下機能

嚥下機能の低下は、加齢による衰え、脳卒中やパーキンソン病などの神経疾患、口腔や食道の炎症、腫瘍、手術の影響など、様々な要因によって引き起こされます。
食事中のむせや飲み込みにくさなどの症状が見られる場合は、早めに専門家へ相談し、適切な対策を講じることが大切です。また、日頃から口腔ケアや嚥下体操を行うことで、嚥下機能の低下を予防することができます。

以下のような症状が出てきたら、嚥下障害を疑う必要があります。

  1. 水物がむせやすい
  2. 食事が喉につかえる
  3. 食事の後に喉が「ゼロゼロ」する(湿った感じの声がすれがする)
  4. 食事に時間がかかる
  5. 体重が減る

嚥下機能低下と誤嚥性肺炎

嚥下機能が低下すると、食べ物や唾液が気管に入りやすくなり、誤嚥性肺炎のリスクが高まります。誤嚥性肺炎は、高齢者や寝たきりの方に多く見られ、重症化すると命に関わることもあるため、注意が必要です。

電気治療機器を使った嚥下機能のリハビリテーション

当院では嚥下障害への対応として複合低周波治療器を使用したリハビリテーションを行っています。複合低周波治療器は微量の電気を刺激感なく筋肉の奥まで伝導することで、嚥下に関わる筋肉を刺激し、嚥下運動と嚥下反射惹起の改善を促します。
週1回、1回20分間程度で行います。